◆ 体幹は頑張って鍛えるな!
最初にあなたに質問があります。
”体幹が強い”とはどういう状態のことをいうでしょうか?
これが分からない状態で闇雲にプランクをしたり腹筋や背筋を頑張っても、簡単には体幹は強くなりません。体幹にある筋力や筋肉量と体幹の強さは同じではないからです。私がこのことに気付けたのは単に運が良かったに過ぎません。
この秘密を知る以前は、トレーニングの本やスポーツトレーニングの専門書、フィットネスジムで働いていたときのトレーナーの先輩から情報を得ていました。体幹の筋肉を鍛えることで、身体の安定感や動きのキレが良くなったりすると信じて全く疑っていませんでした。だから、プランクや腹筋、背筋を継続して筋肉をつければ、強い体幹と高い運動能力が手に入ると思っていたのです。
トレーニングを続けて、当初の目的通り腕や脚も太くなり筋肉はつきました。ですが、トレーニングのおかげで運動能力が上がったのか、スポーツの練習をしたおかげで上手くなっただけなのか正直分かりませんでした。
体幹トレーニングの効果測定ができていなかったのです。可動域が広がったり、身体の安定感が増したり…というのも特に実感しなかったからです。
継続はしていたものの、そもそも体幹トレーニングの効果ってどのくらいあるんだろう?そんな疑問は消えませんでした。
そんなときに、体幹トレーニング専門のトレーニングスタジオを見つけたのです。そのスタジオでは”頑張らない鍛え方がある”ということを学びました。筋肉だけではなく、骨や身体の仕組みを上手く使いこなせる方が、身体のパフォーマンスが上がるというのを知ったのです。いやむしろ、実際に教えてもらったその場で体感したので、信じざるを得なかったのです。
10秒から長くても1分ほどのワークをいくつかするだけで、いとも簡単に脚の動きや身体全体の動かしやすさが変わったのです。
その経験からトレーニングの価値観に疑問を持ち、そのトレーニングスタジオで理論やトレーニングメソッドを学びました。すべてのカリキュラムを終えた今は、キツいトレーニングで筋肉をつけても、身体を正しく動かすという視点からトレーニングを考えなければ意味がないという考え方に変わりました。
実際にそのトレーニングスタジオでは、サッカー日本代表の選手や、なでしこJapanの選手、格闘家やK-1選手にトレーニングの指導やメンテナンスを行い結果を出しています。
あなたは、”筋肉のためだけ”の体幹トレーニングがしたいですか?それとも、身体を機能的にする”効果を実感できる”体幹トレーニングがしたいですか?もし後者であれば、本書を読んで体幹トレーニングの考え方をアップデートしてください。
◆1:体幹トレーニングは低負荷だから回数をこなさないと効果がない
体幹トレーニングに関する大きな誤解の一つは、低負荷で高回数のトレーニングをすればインナーマッスルを鍛えられるという考え方です。または時間をかけて負荷を与えていくというのも同じ間違いですね。
体幹のインナーマッスル(狭義のインナーユニット)は、横隔膜(呼吸に関する筋肉)、腹横筋(肋骨と骨盤の間を埋めるように存在する薄い膜の筋肉)、多裂筋(背骨の横に存在し、姿勢の保持に関係する筋肉)、骨盤底筋群(骨盤の底に存在する筋肉群)という筋肉から構成されています。これに加えて、大腰筋という腰の背骨から股関節につながる筋肉も大切な筋肉です。
筋持久力のトレーニング ≠ インナーマッスルのトレーニング
ハッキリと言います。それは“筋持久力のトレーニング”であって、”インナーマッスルのトレーニング”とは別です。
まず、筋持久力を鍛えるトレーニングについて説明するために筋線維について説明します。
身体を動かす骨格筋(いわゆる筋肉)は、筋線維という線維上のものが束になって構成されています。そして、筋線維は収縮のスピードや力の強さから、速筋(IIaとIIbに分かれる)と遅筋(I線維)に分かれています。
この筋繊維の話はトレーニングをしたことがある人なら一度は聞いたことがあるでしょう。この遅筋と速筋というのは、同じ筋肉のなかに両方存在しています。100%遅筋で構成された筋肉、100%速筋で構成された筋肉というのは存在しません。
低負荷で回数をこなす(イメージとしては、持久走のように同じ筋肉を使い続ける)トレーニングは、筋肉の中にある”遅筋”に狙いを定めた筋持久力を鍛えるためのトレーニングです。身体を動かすアウターマッスル(表層の筋肉)にも遅筋はありますし、身体を支えるインナーマッスルにも速筋はあります。
つまり、持久性の低負荷高回数のトレーニングをしても、アウターマッスルに効かせるトレーニングをしていれば、鍛えられるのはインナーマッスルではなく、アウターマッスルの遅筋です。
プランクをいくら長時間キープしても、腹直筋、広背筋などのアウターマッスルで身体を支えるフォームであれば、それらの筋肉にある遅筋が鍛えられるだけで、身体の奥のインナーマッスルは鍛えることができません。使ってる場所がアウターマッスルなので当たり前といえば当たり前ですよね。
インナーマッスルを鍛えるトレーニングを行うには、インナーマッスルを使わなければいけません。インナーマッスルが働いていないプランクを何時間やったところで、全くの無意味です。
良いトレーニングは効いてる場所をコントロールできること
トレーニングのやり方を教えるブログやYouTube、雑誌は数えきれないほどありますが、それらのほとんどが「トレーニングの手順を教えるもの」良くて「良い姿勢と悪い姿勢を教えるもの」この2つで終始しています。トレーニングの手順をいくら忠実に守り、これでもかというくらい良い姿勢でトレーニングをしたとしても、インナーマッスルが使えているとは限りません。同じ姿勢、同じトレーニングでも意識する部分が変われば、効いている筋肉なんて簡単に変わるからです。
インナーマッスルに効かせるためには、「脇」「みぞおち」「股関節」この3つが使えているかが重要です。トレーニングの回数や時間が何回でも3つのポイントが使えていれば、「身体が動きやすくなる」「体幹を楽に支えられる」といった効果がすぐに現れるのです。それでは、プランクで体感してみましょう。
よくあるプランク
- 肩の真下に肘が来るようにし90度に曲げて床につける。
- 前腕(肘から手のこと)・肘・つま先を地面につけ体を浮かせる。
- 頭からつま先まで一直線になるようにキープする。
よくあるプランクのポイント
- お尻が上がったり下がったりしない。
- 肩からかかとまで一直線を保つ。
- 腹直筋に力を入れる
インナーマッスルに効くプランク
- 肩の下に肘に置き、つま先を床につけて、肩からかかとまで一直線になるようにする。
- 小指側が床につけて、肘で床を押すことで背中を広い状態を作り、肩と耳の距離を遠ざけるように肩を下げる。
- みぞおち(へそから指4つ上あたり)が丸まった状態を作る。
- 股関節を1cmほど引き込み、脇・みぞおち・股関節で体幹で支える。
インナーマッスルに効くプランクの特徴
- 肩甲骨と上腕骨(肩から肘までの骨)を一直線にし、脇を締める。
- みぞおちを丸めることで、大腰筋を効かせる。
- 股関節を引き込むことで、下半身の安定感を作る。
一般的なプランクと、インナーマッスルに効くプランクでは、体幹を支える感覚や終わった後の身体の感覚が違うはずです。一般的なプランクで腹直筋を使うので身体が重く疲れる感覚が出ると思いますが、インナーマッスルに効くプランクは、ポーズ中も深く呼吸ができ、終わったあとは疲れるものの身体が重くなるような感覚は出ません。この脇・みぞおち・股関節を使うのはプランクに限らず、ほとんどの体幹トレーニングで共通して必要な身体の使い方です。
どちらが身体を適切に鍛えられていると思いますか?腹直筋に力を入れて身体を支えることが意味のあることなのか今一度考えてみてください。え?腹直筋に力が入らなかったら、身体が引き締めらないんじゃないか?ぜひ、よくある間違い2、3、7を読んでください。
まとめ
体幹トレーニングを機能的に使うトレーニングをするなら、回数や持続時間の長さよりも「脇」「みぞおち」「股関節」の3つのポイントが使えているかどうかにこだわる。
◆2:トレーニングの効果が出るのに3ヶ月かかる
そもそも効果とはなんでしょうか?私がフィットネスジムや、自分でトレーニングしていたときにこう思っていました。
「3ヶ月続ければ見た目にも変化が出てくる。その変化が出てきたときには運動能力も上がっているだろう」
今考えれば、目的と手段が合わずバラバラの状態でした。見た目に変化を出すためのトレーニングは、筋肉を大きくすることを目的にしたトレーニングです。そして、筋肉を大きくすることは、運動能力を上げるという目的を達成するために必ずしも必要なことではありません。
たしかに、あなたがボディビルダーとは言わないまでもマッチョになりたいなら、身体つきが目に見えて分かるようになるまで(それを効果とすると)3ヶ月はかかるでしょう。身体を機能的にしたいのであればその場で効果を実感できます。
トレーニングの効果はスグに体感できる
実際に体感してみましょう。何も考えず、その場で足踏みをしてみて脚の上げやすさを確認してみてください。確認ができたら、一般的なスクワットをやってみましょう。
■ 一般的なスクワット(大腿四頭筋を鍛える)
- 足を肩幅より少し広くし、爪先を少しだけ(15度程度)外側に開いて立つ。
- 手が肩にクロスにするように置く。
- 膝がつま先より前に出ないように、太ももが地面と平行になるまでゆっくりしゃがむ。(膝とつま先が同じ方向に曲げることを常に意識してください)
- 下まで降りたら、ゆっくり身体を起こしていく。
- 3~4の動作を5回繰り返す。
スクワットができたら、もう一度足踏みをしてみてください。きっと脚が上げにくくなったのではないでしょうか。一般的な膝を深く曲げていくスクワットは、この前ももを鍛える働きが強いので、股関節の動きに制限をかけてしまうのです。
※このくらいの回数では ぶっちゃけ筋肉は増えませんが、身体には変化がありましたよね?このスクワットを教えるトレーナーはめちゃくちゃいますね。
■ 身体を機能的にするための股関節スクワット(ハムストリングスを鍛える)
- 鼠蹊部の真ん中の部分を手で押さえる。
- 爪先と膝をすべて身体の正面に向いていることを確認する。
- 確認ができたら、膝の位置を変えずに、鼠蹊部を引き込みお尻を後ろに突き出す。
- もも裏の張りを感じたら、元の位置に鼠蹊部を押し出すことで戻ってくる。
- 1〜4を5回繰り返す。
股関節スクワットをやったら、足踏みをして脚の動かしやすさを確認してください。おそらく、脚が楽に上がると思います。
その場で効果が出るものを良いトレーニングと考えて積み重ねていくことで、どんどん動ける身体になっていきますし、身体が軽く感じるようになってきます。そうなれば日常生活での活動量も自然と増えていきます。
身体を引き締めるのにキツいトレーニングはいらない
ちなみに引き締まった身体になるために、わざわざキツいトレーニングをする必要はありません。NEAT(非運動性熱産生)と呼ばれる、運動とは言えないレベルの日常の活動量が増やす方が効果的というのも科学的にも分かっています。※1 日常生活でも役立つ正しい身体の使い方・機能的な身体の使い方をトレーニングした方が効果をすぐに感じて、モチベーションも続くので身体に良い結果が出るでしょう。
※1参考文献:「エネルギー消費と代謝障害 NEATと肥満 / 糖尿病」坂口 一彦
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo/55/5/55_313/_pdf
まとめ
筋肉を大きくしたり、見た目に変化が出始めるには少なくとも3ヶ月かかるが、身体を機能的にするトレーニングはその場で効果を発揮する。
Tips:体重が増えることで起きるリスク
筋肉を増やすことにはデメリットがあります。体重が1kg増えると運動時にはその何倍もの負担が身体にかかります。 歩くだけで3〜4.5倍の負担が股関節に、階段の上り降りでは6.2〜8.7倍もの負担が股関節にかかると言われています。筋肉が増えて体重が1kg増えるということは、関節への負担は歩行時に3kg、階段では6.2kg分も増えているのです。スポーツや運動する人なら1〜2kg変わるだけで身体への負担というのは恐ろしく変わります。運動をする人はこのことを心に止めておいてください。筋力を上げることとパワーを発揮することは必ずしも一致しません。最後にイチロー選手の言葉で締めくくります。
「力やパワーを勘違いして肉体を大きくすることは絶対にダメ!これは断言できますね」(2014年「ジャンクSPORTS」のインタビューでのイチロー選手の言葉)
◆3:腰痛には腹筋・背筋を鍛える
ギックリ腰で私のところに来たクライアントと話していて、「ギックリ腰は動いた方が早く治る」ということを伝えたときに、その方はこう言いました。「日頃から腹筋を鍛えれば良いってことですね」と…
もし、あなたもそう思っているのであれば、すぐに腹筋を鍛えるのをやめてください。
腹筋を鍛えたら体幹が強くなり、腰痛が良くなるという考える方は多くいると思いますがそれは間違いです。腰痛を良くするために腹筋や背筋の筋力は必要ありません。むしろ、腹筋を鍛えることがきっかけで腰痛になる人が意外と多いんです。実際に腹直筋の縮む力と伸びる力の差が大きくなるほど腰痛になるという研究結果も発表されています。
腰痛の原因は筋力不足ではない
体幹の強さは見た目に現れる筋肉の大きさや、単純な筋力の強さではありません。ほとんどの場合、筋力は筋肉を縮める力の強さの測定ですが、伸ばしながら筋肉を使えることもかなり重要です。また、筋肉が伸びたり縮んで力を発揮するための弾力性を持っていることも非常に重要になります。
腰痛を良くするにしても、腰痛の種類によってやるべきことが異なります。そのため、絶対的な正解をここでは出せませんが、多くの人は腰の背骨と股関節が固くなり可動域が小さい状態になっています。機能的な身体からかけ離れた状態です。
そもそも腹直筋は身体の外側にあり、体幹を縮めるというのが主な機能です。体幹を縮める力が強くなったところで、機能的な身体の動きができるようにはなりません。筋力を強くするという発想から、機能的な身体を作っていくという発想に切り替えていきましょう。
最後にすべての腰痛に効くわけではありませんが、一定の効果が出るワークを紹介します。このワークをやってみると、腹筋や背筋を頑張る必要がないことを感じるはずです。
■ 割膝(わりひざ)のワーク
- 足を腰幅に開いて立つ。
- 右足を一歩前に踏み出し、足幅は骨盤を正面に向けられる程度に開く。
- 左足のかかとを軸につま先を斜め45度程度に回転させ、足裏全体を床につける。
- 右鼠蹊部のクロスポイントを触りながら、その手を挟むように骨盤を正面に向ける。
- 右膝をかかとの上まで曲げて腰を落とす。
- へそから指4つ上のみぞおちを指でほぐす。
- 指でみぞおちをほぐしたまま みぞおちから背中を丸めていき、右脚の内もも(特に後ろ側)、裏ももを叩いたりさすったりする。
- 内もも、裏ももに感覚が残るまでさすったら、みぞおちから身体を起こす。
- 1〜8までを逆の脚でも行う。
まとめ
トレーニングに関しては、目的と手段が一致していないことがよくある。目的地と逆方向に向かう無駄な努力を避け、身体を壊してしまわないように、身体を正しく使うための知識やワークを知る。
◆4:地味だけどキツいトレーニングをやらないと効果がない
体幹トレーニングって地味な種類が多いですよね?ダンベルなどの器具を使わなかったり、動きも小さかったり…派手なトレーニングが少ないということは認めましょう。笑
キツいトレーニングの代表的な例は、筋肉を大きくするために一定の部位に集中的に負荷をかけてやる腕立て伏せや、回数を重ねる腹直筋のトレーニングといった感じでしょうか?
ちなみに私のトレーニングはもっと地味です。笑 呼吸を使ったトレーニングをはじめ、半分くらいのワークは周りから見たら、どこを鍛えているのか分からないほど地味です。
ですが、レッスンが終わったあとには「身体が軽くなった」「足のむくみや疲れが軽減された」「肩周りが楽になった」「腰の痛みが取れた」と嬉しそうに報告してくれます。(ありがとう)
キツいトレーニングをしないと効果が出ないというのは、「頑張らないとトレーニングの成果が出ない」という思い込みが根底にあります。
筋力を強くする前に正しい身体の使い方を覚える
体幹を上手く使うためのトレーニングは、地味だったとしても身体を正しく動かす方法を少しずつ身体に覚えさせることができます。「もう限界!!これ以上は上がりません!!!」っていうほど追い込まなくても効果が出ます。表舞台で活躍しているアスリートであっても、シンプルなトレーニングをより丁寧にやるだけで身体に変化が出るのを日頃から見ています。負荷の高いキツいトレーニングに取り組むのは、身体の基本的な動かし方を身につけてからで十分です。
正しい身体の使い方は「使う筋肉の場所」と、「筋肉の使い方」の2つを身体に染み込ませるところからスタートします。「使う筋肉の場所」の簡単な指標が、脇・みぞおち・股関節の使い方です。細かい知識がなくとも今までのトレーニングから、脇・みぞおち・股関節への意識に変えるだけで、トレーニング後の身体の軽さや動きにすぐ効果が出るでしょう。「筋肉の使い方」の指標は、力んで頑張らず各関節を柔らかくしたり骨の仕組みを利用し、身体に負担をかけない動きができることです。
まとめ
頑張って行うキツいトレーニングの目的は、筋肥大や筋力アップ。
筋力アップは正しい身体の使い方を覚えていくからで十分。(息を止めるほどのトレーニングはほとんどの人に必要ない)
◆5:トレーニングのメニューを数多くこなさないといけない
あなたもYouTubeを見たり、トレーニングの本やTarzanなどのトレーニングの雑誌を読んだことがあれば思ったことはないですか?
「トレーニングの数ちょっと多すぎん?」
トレーニングをするあなたの立場から見れば、「数が多すぎてどれをやったらいいんか分からない」とか「全部やってたら時間がかかりすぎる」と思ったことが、一度はあるんじゃないでしょうか?また数が多すぎて結局一部のトレーニングしか取り組まず身体のバランスを壊す。なんてこともあるかもしれませんね。まぁこれは、大学生のときの僕の話なんですけど…笑
トレーニングの数があれだけ多いのは、「飽きる」とか「不安になる」というのを防ぐためにやっています。自重系トレーニングは簡単に取り組める分 やめるのも簡単ですよね? それに、身体付きが変わるのは3ヶ月後…すぐに効果はわからないから、飽きないように 発展版のトレーニングや、トレーニングの中でもバリエーションを出して継続してもらおうとしています。
多くのトレーニングをこなしたら、「よし!トレーニング完了!!」みたいな達成感が出てくるので不安は解消されるでしょう。これだけ頑張っているんやから、身体が引き締まっていく、とか身体が良くなっていくみたいな感覚を得られるはずです。
トレーニングの数に満足するな。質にこだわってやり込め!
これは正直「ズルい」と思っています。なぜかというと、トレーニングを行うことで、身体の動きが変わるとか機能面での変化を示すことができないから、トレーニングの数を増やしてまずは取り組んでもらって、「数多くのトレーニングをこなした」「負荷の高いトレーニングをやり切った」という達成感を与えて誤魔化しているんじゃないかと。
その達成感の繰り返しでトレーニングを続ければ、身体はそれに適応するために強くなっていきますから見た目も変化していきます。(どんなトレーニングでも続ければ、体力や筋力は付きます。間違ったフォームで続ければ、問題が起きやすい形で筋肉も強くなりますよ。)まぁそれで自信がつくのは素晴らしいと思いますし、僕自身も体脂肪が常に10%を下回っている自分の身体を見て、「うん、なかなか ええ身体してるやん?」って思います。笑
そんな自慢はさておき…トレーニングの種類は10も20も必要ありません。難しさや負荷の大きさも同じです。一つのワーク、簡単なワークでも、身体の繋がりや本質を理解できれば、肩のトレーニングで股関節の動きを良くできますし、逆に股関節のトレーニングで肩の動きを良くすることも体幹の安定感を増すこともできます。
身体にすぐに良い変化が出れば継続したらもっと良くなる と思えますよね?頑張った疲労感や達成感も大切ですが、それ以前に身体に良いことを続けたいですよね?(将来的にこの頑張っているのが報われるだろうという希望的観測ではなく)
僕が机上の空論や、理論は正しいということを言っているわけではなく、一つのトレーニングで身体に起こる変化を体感してください。
一つのトレーニングで身体の変化を体感する
まずは、天井が見えるように仰向けになり、膝を真っ直ぐ伸ばしたまま脚を上げて、脚の上げやすさや可動域を確認してください。
確認ができたら、トレーニングの一つのやり方を試すごとに、脚の上げやすさを確認していきましょう。
レッグリフト(股関節)
- 仰向けになり膝の下にカカト、つま先をすべて正面を向ける。
- そけい部(骨盤の前側、真ん中の下の恥骨の横あたり)を指先で触り、そのそけい部を挟み込むように膝を股関節の真上まで上げる。
- 左右交互に5回ずつ行う。
Tips
大腰筋と呼ばれる、背骨の腰の部分から股関節に向かってついている筋肉の股関節側の動かし方を覚える。
トレーニング後に真っ直ぐ膝を伸ばした状態での動かしやすさを確認してみましょう。
レッグリフト(みぞおち・股関節)
- 仰向けになり膝の下にカカト、つま先をすべて正面を向ける。
- 右手で左のそけい部(骨盤の前側、真ん中の下の恥骨の横あたり)を指先で触り、左手でヘソから指4本上側のみぞおちを触る。
- みぞおちと、そけい部を近づけるように膝を股関節の真上まで上げる。
- 同じ脚で5回行ったら手を入れ替えて逆の脚でも行う。
Tips
大腰筋の腰に近い部分から使う感覚を覚えて、股関節の動きをさらに良くする。
トレーニング後には、真っ直ぐ膝を伸ばした状態での動かしやすさを確認してみましょう。
レッグリフト(脇・みぞおち・股関節)
- 仰向けになり膝の下にカカト、つま先をすべて正面を向ける。
- 両手を天井方向に前にならえの状態を作る。
- 指先が天井に近づくようにしっかり伸ばして肩甲骨を外側に開き、肩と耳を遠ざけるように肩を下げて脇が締まった状態を作る。(腕を伸ばすことで、みぞおちも丸くなる)
- 左右交互に5回ずつ、膝が股関節の上に来るまで上げておろす。
Tips
脇の下の前鋸筋から内腹斜筋、外腹斜筋、大腰筋を連動させた股関節の動きを覚えさせることで、体幹全体を連動させて股関節の動きを良くする。
トレーニング後には、真っ直ぐ膝を伸ばした状態での動かしやすさを確認してみましょう。
いかがでしょう?たった一つのトレーニングで脚の動かしやすさが変わりましたよね?同じ動きでも筋連鎖をどんどん繋げていくことで、さらに変わりませんでしたか?これを続けたら身体って簡単に良くなります。股関節周りを鍛えるトレーニングを10個も20個もやる必要はありません。
こういったその場で効果が分かるトレーニングを続けて身体を変えたくないですか?
まとめ
数多くのトレーニングをする必要はない。
簡単、シンプルなトレーニングでスグに効果が出る。
シンプルなトレーニングでいろんな身体の使い方を覚えることが身体の正しい使い方につながる。
◆6:体幹を鍛えたら運動能力が上がる
最初に質問があります。
そもそも体幹が弱い・強いってなんですか?
体幹が強くなれば運動能力が上がるというのは一般的な考え方だと思います。ですが、体幹の強さって何ですか?
腹筋・背筋をやっても運動にどう影響するかを理解していなければ意味がありません。トレーニングを続けることで体幹を固めた動き方を覚えてしまい、動きが悪くなっているということはよくある話です。
筋力が付くことで弱くなった超一流プロ選手
筋トレ初期の必要な筋力も足りない状態であれば効果はあります。ですが、運動能力を高めるために必要な要素は筋力だけではありません。筋力がより必要なスポーツもありますが、運動能力は肩や股関節を使って大きく動けるか?ということや、同じ体幹でも「安定させる」と「動かす」という相反することを、身体の中で同時に行いコントロールできる力も必要になるのです。
身体の動きの中には、主動作筋と拮抗筋を同時に働かせる「共縮」というのがあります。例えば、肘を曲げる動作と肘を伸ばす動作を同時に行うと、肘がある部分で固定されますよね?これが共縮の一つの例です。プランクの姿勢で耐えるのも縮む筋肉と伸びる筋肉の両方が働くことで身体の安定を作っています。
共縮にも良い共縮と悪い共縮があり、良い共縮は身体の安定を作ったり、変な方向に身体が身体が動かないようにし怪我を防ぎます。ですが、筋力をつけすぎることで悪い共縮が起きることがあります。
報道ステーションで放送された、イチロー選手と稲葉選手のこんな対談があります。
「僕も結構ウエイトトレーニングやりましたからね。やって身体が大きくなった。バカだから嬉しくなるじゃないですか?俺も身体が大きくなったいいなぁって。春先、スイングスピードが落ちるんですよ。回らなくなっちゃう、この辺が(胸あたりを指して)」
「毎年 不思議だったんですけど、春先に僕、全然動けないんですよ。で痩せてくるじゃないですか?シーズンに入ったら。シーズンに入ったらそんなトレーニングできないんですよ。春に作った身体をキープできない。だからだんだん痩せていくんですよ。そうすると、スイングスピードが上がってくるんですよ。無駄なところが省かれていくから。それが答えじゃないですか?」
これは筋力をつけることで、バットを振るという動作を強くする筋力と、その逆の安定させようとする筋力の両方が働くことで、悪い共縮が起きていた例です。
筋力は運動能力の一要素でしかない
筋力をつければ強くなるわけではありません。筋力は運動能力の一要素でしかないのです。
筋力で解決するのであれば、同じ背格好・同じ体格でも運動能力が全く異なる理由が説明できませんし、野球で身体が出来上がっている高校生よりも、小柄な小学生が遠くまで飛ばすことができること とかもっと説明ができないでしょう。
ちなみに、野球の小学生と高校生の違いは「同じ動きでも使っている筋肉が違う」ということも一つの要素ですし、「バットを振るタイミングや芯を捉える技術」など技術的な部分ももちろん違いを生み出す要素の一つでしょう。
筋力をただなんとなく鍛えるよりも、正しい身体の動かし方を身につけているというベースの上に、スポーツの技術を積み重ねていく方が大事です。
体幹の強さは総合力
体幹の強さは、関節の可動域、動きを生み出す肩関節や股関節周りの筋力、筋肉の弾力性、身体に無駄な力が入っていない状態、必要十分かつ最低限の力で動かす使い方などの総合力です。(支点をズラしながら力を効率よく伝える使い方なども…突き詰めるともっと色んな要素があります。)
何度も言いますが、筋力はほんの一要素でしかありません。逆に筋トレや体幹トレーニングを頑張りすぎる選手は、ウエイトトレーニングに励んでいたイチロー選手のように運動能力を落とすこともあり得ます。
トレーニングの良い面でも悪い面でもありますが、頑張っているヘトヘトになればなるほど、達成感が出て強くなる気がしますよね。努力家ほどそういったトレーニングに打ち込んで身体を追い込みます。そして、技術練習の時間もちゃんととって、筋力を上げるためのトレーニングも行ってオーバーワークになっていきます…
ですが、この努力しているという感覚が上達の速度を妨げることがあります。オーバーワークになると、身体は固まりやすくなるので可動域が制限されます。そうなると、身体のバランスが崩れ、歪みが起こります。さっきのイチロー選手の話にあった、バットを振るための筋力と安定させるための筋力が同時に働きすぎるのも、筋力調整ができないバランスが崩れている例の一つです。偏ったトレーニングで骨や関節に支障が出るのも歪みの分かりやすい例です。筋力は筋肉が縮むことで発揮されるので、筋肉を柔らかい状態に整えることが歪みのない状態を作るために大事です。
必要十分かつ最低限の力で動かす使い方は特に重要な要素です。分かりやすく筋力を数値化しましょう。
一人はA選手は
- 力を発揮するための筋力が100
- 安定させるための筋力が60
A選手が最終的に発揮できる力は”40”です。
もう一人のB選手は
- 力を発揮するための筋力が70
- 安定させるための筋力が20
B選手が最終的に発揮できる力は”50”です。最終的に発揮できる力を見ると、B選手の方が強くなります。発揮できる力が強くなればなるほど、それから関節や腱など鍛えられない組織を守るための筋力も大きくなるので、鍛えれば鍛えるほど弱くなることも起こり得るのです。
最後にあなたに質問です。
あなたは、体幹の筋力を鍛えたいですか?
それとも、体幹を上手く使う方法を覚えたいですか?
まとめ
筋力は運動能力の一つの要素でしかない。
筋肉の状態を整えて、力を発揮しやすい身体環境を整えることが大事。
身体を必要十分かつ必要最小限の力を使って身体を動かす方法を覚える。
◆7:体幹を鍛えたら基礎代謝が上がる
これは正解でもあり不正解でもあります。
ですが、基礎代謝を上げるそもそもの目的はなんでしょうか?
もしあなたがスリムなメリハリのある体型を手に入れたいなら、「体幹を鍛えること」「筋肉を鍛えること」に固執しない方がいいでしょう。
なぜなら痩せるために必要な要素は、散歩や家事といった「日常生活での何気ない運動量を増やすこと」と「内臓を整えてホルモンバランスを整えること」だからです。
デスクワーク中心の人の1日のエネルギーの内訳
- 30%:運動代謝(日常生活の歩きや運動など)
- 10%:食事誘発性代謝(食事を分解するときに発生するエネルギー)
- 60%:基礎代謝(生命維持に必要なエネルギー)
基礎代謝について話しましょう。何もしなくても身体の中で燃え続けるものと言えば、魅力的に感じるかもしれませんね。ですが、基礎代謝って生命維持に必要なエネルギーのことを指しています。
筋肉は基礎代謝のほんの一部でしかない
正直にいうと、筋肉って基礎代謝のほんの一部でしかありません。
基礎代謝の内訳:
筋肉は22%、肝臓が21%、脳が20%、心臓が9%、腎臓が8%、脂肪組織が4%、その他16%
表: ヒトの臓器・組織における安静時代謝量
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/ exercise/s-02-004.html
たしかに、骨格筋の割合の22%って結構大きい数字です。ですが、内臓の基礎代謝はもっと大きい数字になります。肝臓と腎臓だけで29%、その他の内臓も含めるともっと大きな数字になります。筋肉をつけることは重要そうに感じますが、内臓を整える方が基礎代謝を上げるのにもっと効果的と思いませんか?
内臓の状態が整っているのに、基礎代謝が低く脂肪が付きやすいってことはほとんどありません。余計な脂肪が身体に付いている時点で、少なくとも肝臓は疲労困憊状態だからです。
肝臓は21%も基礎代謝が高いのはそれだけ活動しているということです。肝臓は余ったエネルギーを貯めたり、有害物質(アルコールなど)を分解したりしています。脂肪が身体に付くのは、肝臓に貯めきれなくなった分がお腹やアゴ、太ももに付いているからです。
まずは、内臓を整えた方が基礎代謝を上げることに効果があります。内臓が上手く機能していない人の多くは、内臓が集中して存在する みぞおちが固まっています。みぞおちが固まると体幹の筋力も発揮しにくくなります。そうすると、身体がダルかったり重くなるわけですから、日常生活での活動量も減りますよね。つまり、30%の身体活動によるエネルギー消費も減るわけです。
良いこと一つもない。笑
そして、そんな身体が重い人に、「とにかく痩せるためには筋トレだー!」「体幹トレーニングだー!」って酷ですよね。精神力がいるわけです。まずは固まった内臓をほぐして柔らかくしてあげることが大事なのです。
内臓がほぐれると体幹の筋バランスも変わってくるから、日常の小さい運動も楽にできるようになります。そういった状態を先に作ってから運動を始めれば良いんです。
ちゃんと正しい知識が身につくと、基礎代謝を上げるのが簡単そうに思えませんか?
まとめ
基礎代謝を上げるなら内臓から整える。
体幹の筋バランスを整えてから、日常生活のなかに散歩などのちょっとした運動を増やしていく。
P.S.
ちなみに、腹直筋を鍛えて固めることで、内臓が固まるということもありますよ。
最後に
いかがだったでしょうか?本書を通じて、トレーニングの理論の解釈のミスや、効果のあるトレーニングを、あなたの体感を通じて気付いてもらえていたら嬉しいです。
本書を通じて、一貫して伝えたかったことは、身体に関するHack(ハック)です。もしかしたら、ハックという言葉を聞きなれないかもしれません。ハックというのは元々IT業界の言葉で、高い技術力を駆使してシステムを効率化し成果を飛躍的に上げる知恵のことを表しています。そして、テクニカルライターのダニー・オブライエンが、仕事の質や効率を上げて、生産性を高く維持するために行う工夫や取り組みのことを「ライフハック」と呼びました。
ハッカーやハッキングという言葉は、悪い意味で広がっていますが、元々は高い技術力のことを指しています。IT業界では、もともと悪いことに利用する人をクラッカーやクラッキングと呼んでいるのです。
「ハッカー思考」を持つ人は、人とは違う規則性や法則性を見つけて、その規則性や法則を構成するシステムの隙間に入り込みます。そして、周りの人とは違うことをして、成果を得るために大幅なショートカットをして成果を得るのです。
axishack.comでは、身体の軸(Axis)を作るためのシステムをハックして、一般の人が思いもしない方法や仕組みを利用して身体を鍛えたり、よく動く身体を作っていきます。 今後、メルマガやブログで楽しみながら身体のことや学べる機会をどんどん提供していきます。その中で、あなたの身体を最高に動ける身体に変えていくお手伝いができることを楽しみにしています。
コメントを残す